【MDG7】環境の持続可能性とアフリカの未来
2010.12.20
国連大学副学長 武内和彦さんに、MDG7「環境の持続可能性」についてご寄稿いただきました。
武内さんがルワンダ共和国で見た住民参加型の取り組みの紹介を通じ、環境の持続可能性が、貧困からの脱却を目指すアフリカ諸国にとってどのような意味を持つのかを解説していただいています。
国連の提唱する「ミレニアム開発目標(MDGs)」の7番目の目標は、「環境の持続可能性」の達成である。環境資源の劣化をもたらさない持続可能な開発の実践や、生物多様性の減少を顕著に食いとめること、安全な飲み水を確保すること、スラム居住者の生活改善を図ることなどをつうじて、2015年までに環境の持続可能性を達成することが大きな目標となっている。
しかし、他のミレニアム開発目標と同様、このままでは達成が困難との悲観的な見方が広がっている。とくにアフリカ諸国では、森林資源の減少や土壌侵食の深刻化などが一層進んでいるという報告がなされている。こうしたなかで、2010年11月に私が訪れたルワンダ共和国では、環境の持続可能性の達成に向けて着実な成果をあげている実態を垣間見ることができた。
1994年に100万人ともいわれる大量虐殺があったルワンダ共和国は、21世紀に入って、カガメ大統領のリーダーシップのもと、コーヒー、茶、錫などの輸出に成功し、新たな産業を創出して「アフリカの奇跡」と呼ばれている。私は、竹とラタンの利用を通じて貧困撲滅を目指すINBARという北京に本部をもつ国際組織の理事会に出席するためこの国を初めて訪れた。
(連なる丘に市街地が広がるキガリの風景)
会議に先だって、首都キガリ郊外の農村を訪れ、雨季に入る直前に開催された植樹祭に私たちも招かれた。ルワンダは「千の丘の国」と言われ、マイクロバスで丘また丘の続く道を進んで到着したのは、農民、兵士、NGO、市民などが大勢集まった植樹祭の現場であった。斜面の至るところに穴が掘られ、多くの種類の苗木が斜面一面に植えられていく光景は壮観であった。
(植樹祭の風景(キガリ郊外の農村にて))
私たちは、この植樹祭の責任者である、バジバモ林業・鉱業大臣に直接話を聞くことができた。彼によると、30ある地方や400以上に及ぶセクターごとに植樹祭が実施されており、参加者数は、総人口1千万人のうち、実に数百万人に達するという。国の環境政策では、現在国土の21%を占める森林面積を、2020年までに30%にまで回復させることが目標となっている。
バジバモ大臣は、既存の森林の90%近くが外来種であるユーカリからなるのに対し、竹林を含む多様な植生の再生をつうじて生物多様性の回復を目指しているという。しかも、それを地域の活動として展開することによって、大量虐殺で失われたコミュニティの再建にも大きく貢献することを期待している。植樹活動を通じて、これまで疎遠であった人々の距離が縮まるからである。
もちろん、植林の意義は生物多様性の回復やコミュニティの再建にとどまらない。再生された森林は、依然として重要なこの地域の薪炭林として、また水源涵養林として、地域に住む人々にさまざまな恩恵を与えるのである。生物多様性条約の目的の一つである持続的な生物資源の利用という観点にたてば、植林活動が地域の人々の福利向上につながる点も重要である。
バジバモ大臣は、このようなボトムアップによる参加型アプローチこそが持続可能性(サステイナビリティ)をもたらす秘訣だと強調する。私が所長を務めている国連大学サステイナビリティと平和研究所が現在進めている環境の持続可能性を目指す試みの立脚点もまた、地域の人々の能力形成を行ったうえで、ローカルアクションによる問題解決を促すことにある。
生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)を契機に、環境省と国連大学高等研究所が提唱したSATOYAMAイニシアティブは、ルワンダの植林活動にみられるような、人間と自然の共存したランドスケープの再生を提案している。このイニシアティブに対してアフリカ諸国から大きな賛同が得られたのは、彼らがその重要性を深く認識していることの表れであろう。
SATOYAMAイニシアティブでは、人間と自然の良好な関係が崩壊しつつあるとの認識に基づき、地域の人々が守ってきた伝統的な智慧を生かしながら、グローバル化の時代にも適うように、科学的な知識を融合させ、新しい持続可能な生物生産システムを構築することが大きな課題である。その意味で、ルワンダの取り組みは、イニシアティブの趣旨ともよく合致している。
貧困からの脱却を目指すアフリカ諸国では、環境の持続可能性を追求しても、それが地域の人々の福利向上につながらなければ、結局は他のミレニアム開発目標は達成できないということになってしまう。それゆえ、生物多様性の劣化とひきかえにすすめられてきた開発のあり方を見直し、生物多様性を保全しながら持続可能な開発を進めていくことが重要となる。
2010年8月、長崎・広島訪問に先立って東京青山の国連大学本部で演説した潘基文国連事務総長は、ミレニアム開発目標の達成に向けた強いメッセージを私たちに伝えた。彼は、ミレニアム開発目標多くが達成困難という悲観的な見方が広がっているのに対して、目標年の2015年までにはまだ5年もあり、その実現に向けて最大限の努力をすべきだと強調する。
わずかの期間に国の復興をなしとげたルワンダにおける環境の持続可能性向上への取組は、ミレニアム開発目標が短期間で達成可能であることを証明している。先進国にすむ私たちも、ミレニアム開発目標が切り拓くアフリカの未来を積極的に支援していきたい。
(バジバモ大臣とINBARメンバー(左から6人目が大臣、その右隣が筆者))
著者紹介
武内 和彦(たけうちかずひこ)
1974年東京大学理学部地理学科卒業、1976年同大学院農学系研究科修士課程修了。東京都立大学助手、東京大学農学部助教授、同アジア生物資源環境研究センター教授を経て、1997年より同大学院農学生命科学研究科教授。2005年より東京大学サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)副機構長、2008年より国際連合大学(UNU)副学長、2009年より同サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)所長を併任。日本造園学会会長,中央環境審議会委員、食料・農業・農村政策審議会委員などを兼任。
専門は、緑地環境学、地域生態学、地球持続学。人と自然の望ましい関係の再構築を目指して、アジア・アフリカを主対象に研究教育活動を展開している。最近では、持続型社会の構築を目指す俯瞰的な科学としての地球持続学(サステイナビリティ学)の世界的な拠点形成に向けて奔走している。また、日本の里地里山の再生を目指すとともに、伝統的な土地利用の再構築に向けた世界の多様な取り組みとの連携を目指すSATOYAMAイニシアティブにも深く関与している。最近の著作には、「地球持続学のすすめ」(岩波ジュニア新書、2007年)、「生態系と自然共生社会」(共編著、東京大学出版会、2010年)などがある。





