【MDG7】鳥は生物多様性をはかるGood Indicator
2011.01.13
特定非営利活動法人バードライフ・アジア 副代表の鈴江恵子さんに、MDG7「環境の持続可能性」に関してご寄稿いただきました。
鳥類をシンボルとした環境活動の持つ意義や、今後の取り組みについて解説していただきました。
生態系を保全する手法は様々だが、私が勤務するバードライフ・アジアは、鳥類をシンボルとした環境活動に力をいれている。これには理由がある。生態系の成りたちを示す生態系ピラミッドという言葉があるが、ワシタカ類がその上位に位置している(図1)。これらの鳥類を調べることで環境全般の状況をとらえることができ、また保全活動を通して他の多様な生き物や環境を保全することができる。

(図1)
バードライフは1922年に英国ケンブリッジで発足した世界でも最も古い歴史をもつ環境NGOで、現在は113カ国に協力団体や活動拠点があり、250万人が参加する世界規模の環境保全団体である。2004年から日本の高円宮妃久子殿下が名誉総裁を務められているが、専門的な知見に基づき、生物多様性条約やラムサール条約などにデータや情報を提供したり、共同事業を推進する専門性の高い団体でもある。国際自然保護連合IUCNが発表している絶滅の恐れのある種をまとめた「レッド・リスト」も、元々はバードライフが鳥類のデータをまとめ、IUCNに提供して出来たものだ。今日では鳥類だけではなく、哺乳類、昆虫、植物など他のカテゴリーまで拡大しているが、種を100%カバーしているのは鳥類リストのみである。従って環境アセスメントなど、生態系の調査を実施する時には、希少種の鳥類の生息の有無を見ることが多く、科学的な調査のベースとして鳥類が大変有効な指標となっているのである。
「何故鳥類なのか?」の答えとして、調査率100%の精度や、生態系ピラミッドの頂点に位置していることの他にも理由がある。そのひとつに、鳥は人間が定めた国境を越え、多国間を移動することが挙げられる。鳥類は、ほぼ一年中その場所でみられる鳥、あるいは一定の期間だけ滞在する渡り鳥に大別することができる。例えば日本に生息する約700種の鳥類のうち、半数以上が渡り鳥だ。日本でみられる渡り鳥は、夏に南の越冬地から日本に繁殖にやってくる夏鳥、冬に北の繁殖地から日本へ越冬にやってくる冬鳥、そして日本より北の繁殖地と日本より南の越冬地を行き来する時に休息に立ち寄る旅鳥に分けられる。
このような渡り鳥やその生息地を保全するには、国内の保全活動のみならず、渡り鳥が生息する各国との国際的な協力が必要不可欠となる。そのため渡り鳥が利用する経路(フライウェイ)にある生息地を国際的なネットワークで保全しようとする考えが生まれ、世界の各地域で実施されている。日本に飛来する渡り鳥が利用するフライウェイは、東アジア・オーストラリア地域フライウェイと言い、バードライフ・アジアは環境省や他の鳥類保全団体等と共に参加している(図2)。他にもヨーロッパ・アフリカフライウェイ、南北アメリカフライウェイなどいくつかのフライウェイがあり、世界のバードライフのパートナー団体や政府、NGOが協力し保全活動を推進している。

(図2)
我々人類は天然資源から動植物まで、地球のあらゆる生態系や生物を利用している。しかし、その利用は持続的とはいえず、そのためさまざまな地球環境問題が生じている。日本を例にとれば、食糧、木材、魚などの海洋資源、鉱物資源など、豊かな暮らしを維持するために必要なもののほとんどを地球規模で調達している。しかし、日本に輸出するためにインドネシアの熱帯雨林が伐採され、オランウータンやゾウ、トラなど多くの生き物が激減してもそれは遠いよその国の出来事であって、目は国内の環境保全に向きがちである。地球はひとつしかなく他に取り換えようがないものだが、どうしても近視眼的になってしまう。点で守るだけでは地球の生態系は守れない。人類が直面している気候変動問題にしても、森林の減少による二酸化炭素の排出が及ぼす影響が極めて大きい。温暖化で海水面の温度があがり、異常気象が加速される。このように、地球の環境は一つの輪としてつながりあっているのであって、全員参加で取り組まなければ成果を期待できないものである。
そんな時、鳥類を例にした国際協力は大変わかりやすく、また説得性もある。鳥類保全をシンボルとした生息地の保全活動で湿地が守られ、森林の減少に歯止めをかけることができる。しかも活動には一般の市民に参加を呼びかけることもできる。鳥類は世界中に広く分布しており、昼間見ることができる。鳴き声による調査がやりやすいという利点もある。世界のバードウォッチャーを動員して広範囲な調査が実施できるのも「鳥」の持つ強みであろう。10月に名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議でも、鳥類が生物多様性をはかる指標として大変優れていると発表された。鳥はスズメやツバメなど誰にも親しまれる身近な存在であり、和歌や絵画など文化や芸術の対象として愛される生き物であり、また、地球環境の保全の指標までさまざまな役割を担える生き物である。
私はかつて日本の自然保護活動支援に関わっていた。日本中の自然保護運動家と会い話をした。その一人は農業を営むかたわら、ナショナルトラスト方式で荒れた森を買い取り、生き物の生息地を守ろうとしていた。「農耕機で土地を掘り返すとき、うるさいほど小鳥がよってきたものだ。それがある日ぱったりといなくなったことに気付いた。農薬を使うようになってからだ。鳥の声も聞こえない原っぱを孫に残したくないと思った」と、語ったのが強く印象に残っている。また、その地域の獣医は、「農薬を散布した日と翌日は鳥がバタバタ落ちてくる。運ばれても助けようがなかった」と語った。まさにレイチェル・カーソンの沈黙の春の再来である。
私は鳥も住めない環境には人間だって住めないと信じている。そのために私に何ができるであろうかと考えて始めたのが企業に生物多様性への取り組みを強化してもらうことだ。あらゆる生物は環境の中で生かされ、生態系の恵みに依存している。しかし、生態系に最も強い影響を与え、負荷を変えることができるのは何と言っても企業だ。企業は生態系の恵みを利用して企業活動を行っている。しかるにこれまで自然から得るものは「ただ」だと考えてきたふしがある。生物多様性条約第10回締約国会議で、遺伝資源の利益配分における資源保有国の権利が明記された。TEEB(生態系と生物多様性の経済学)レポートは生態系の価値を数字で表し、企業に生物多様性に配慮した経営を行うよう促した。こういった背景の下、生物多様性保全を検討し始めた企業に、どうやったらより環境に負荷をかけない経営ができるのか、現状を評価し改善すべき分野を提案していきたいと考え、新たな手法を考案した。2010年3月パナソニック株式会社に対し企業活動の生物多様性評価を実施し、10月には株式会社損保ジャパン・リスクマネジメントと共同で、企業が取り組みのレベルを自己診断できる評価の仕組みを作った。これからの数年間はこの分野に力を注ぎ生物多様性の保全に貢献したい。
著者紹介
鈴江 恵子(すずえ けいこ)
バードライフ・アジア副代表 博士(環境共生学)。
企業でCSR活動、とくに国内の自然保護活動支援に関わったことを契機に、農業を含めた広域な環境問題への関心を深めた。2005年から社会人大学院生として農業と環境の研究を始め、2008年に「ドイツのグリーン・ツーリズムの研究」で学位を取得した。現在は国際環境NGOで、熱帯雨林の保全・復元、途上国の地域住民の生活支援、企業と生物多様性など、グローバルな視点を生かした環境事業を実践している。





