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MDGs blog

【MDG7】SATOYAMAイニシアティブについて

国際連合大学高等研究所の中尾文子さんに、MDG7「環境の持続可能性」についてご寄稿いただきました。

日本では昔から、農業などで人の手が入った、自然と都市との中間に位置する地域である里地里山(さとちさとやま)が、人々の暮らしを支えてきました。そしてこの里山ということばが使われた「SATOYAMAイニシアティブ」という取り組みが、国際生物多様性年であった昨年、世界中で注目を集めました。

SATOYAMA イニシアティブとはどういった取り組みであり、どのようなことが期待されているのか。今後の展開を含め、解説していただきました。

 


 

はじめに

 SATOYAMAイニシアティブは、人々の暮らしや生物多様性を守るためには、原生的な自然ではない、農地や二次林など人が関わることによって形成され維持されている二次的自然環境も重要だということに気付き、失われつつあるそのような自然を持続可能な形で保全・利用していくためにはどうすべきか考え、行動しようという取組です。取組をさらに国際的な協力の下で進めるため、今年10月に名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の際に、世界中から、政府、NGO、コミュニティ団体、学術研究機関、国際機関等多岐にわたる51団体が参加して、SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップが発足しました。

 

SATOYAMAイニシアティブ

 人間が自然に農耕等を通じて長年関わることによって形成され維持されている二次的自然環境は里山に限らず世界各地に存在します(SATOYAMAイニシアティブでは社会生態学的生産ランドスケープと呼んでいます)。地域の気候、地形、文化等により、稲作や放牧等利用の仕方は異なりますが、様々な土地利用が一帯の中でそれぞれ関係性を持って行われています。例えば、ペルーのクスコバレーに位置するポテトパーク。急峻な山岳地帯であるため標高によって微気象等環境が異なるため、標高を基準とした土地利用が古来からなされています。ジャガイモ等を栽培するエリア(連作障害が生じないよう休耕する畑とそうでない畑をモザイク状に配置しローテーション)、トウモロコシ、豆、大麦等を栽培するエリア、薬草や木材利用の対象となる灌木が生えているエリア、湿地、森林などで構成されています。そして実に、世界で利用されているおよそ4000以上のジャガイモの品種の内、1300以上の品種が約9000ha、人口4000人弱のコミュニティにより維持されています。(写真)

 

Potato Park4_middle.jpg

 

 このような社会生態学的生産ランドスケープでは、持続可能な土地や自然資源の利用が行われてきましたが、都市開発や大規模農場開発による土地利用の改変、過疎高齢化による維持管理の放棄あるいは急激な人口増に対応するための過剰利用等により持続可能な形での存続が困難になってきています。例えば、日本の場合は、日本の建設需要を満たすための人工林の造成、安価な木材の輸入、農村社会から都市社会への移行、木炭、薪から化石燃料への燃料源の変化などに起因する土地利用の変化に加えて、急速な高齢化によりその維持に必要な労働力の確保が困難になり里山が衰退しています。日本は、生態系や生きものの多様さといった生物多様性が、面積に比して豊かであることで知られています。それは亜寒帯から亜熱帯にまたがる南北3000kmに渡る国土や急峻な山岳を有する複雑な地形、いくつもの海流、四季の変化があること等によります。しかし、日本に生息する爬虫類、両生類の3割強、哺乳類の2割強、鳥類の1割強にあたる種が、現在絶滅のおそれのある種に分類されており、その中にはメダカ等これまで里山で身近に存在していた種も少なくありません。このような状況ですので、SATOYAMAイニシアティブについて、「日本の里山をモデルに世界に発信」とマスコミに報道されることがありますが、少しニュアンスが違うとお分かりになられると思います。世界各地の人々をつないで、それぞれの地域に応じた形で持続可能な土地や自然資源の利用が行われる社会生態学的生産ランドスケープを維持・再構築しようというものです。

 

SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ

 新たに誕生したSATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップでは、社会生態学的生産ランドスケープが人々の生活や生物多様性に与える重要性に関する理解の向上や啓発、ランドスケープへの支援のため、①多様な生態系のサービスと価値の確保のための知恵の結集、②革新を促進するための伝統的知識と近代科学の融合、③伝統的な地域の土地所有・管理形態を尊重した上での、新たな共同管理のあり方(「コモンズ[1]」の発展的枠組み)の探求([1]国際的/グローバルコモンズを除く)を行動指針として、ケーススタディを通じた知見の共有、研究、キャパシティビルディング、コミュニティ支援などの協力活動を進めていく予定です。

 来春3月に愛知県において、パートナーシップメンバーによる第1回目の総会を開催します。これにあわせ、一般の方も参加が可能な公開フォーラムを開催し社会生態学的生産ランドスケープについて関心を持つ方々の情報共有や交流の場を設ける予定ですので、是非多くの方々にご参加をいただきたいと思います。公開フォーラムの詳細についてはSATOYAMAイニシアティブのウェッブポータルサイトhttp://satoyama-initiative.org/jp/ に随時アップしていく予定です。

 

 【参考文献】

Argumedo A. and Wong B.Y.L. (2010)The ayllu system of the Potato Park(Peru) In Bélair C., Ichikawa K., Wong B.Y.L., and Mulongoy K.J. (2010) Sustainable use of biological diversity in socio-ecological production landscapes. Secretariat of the Convention on Biodiversity, Montreal, Technical Series, No.52.

日本の里山・里海評価(2010)里山・里海の生態系と人間の福利:日本の社会生態学的生産ランドスケープ概要版―,国際連合大学,東京.


著者紹介

 

CITINET portrait.jpg中尾文子(なかお・ふみこ)

国際連合大学高等研究所SATOYAMAイニシアティブコーディネーター。2009年にSATOYAMAイニシアティブの構築及び遂行のため環境省から国際連合大学高等研究所に出向。それまでに、中部山岳国立公園管理事務所国立公園管理官、地球環境ファシリティー事務局山岳生態系プログラム管理官(ワシントンDC)などローカルからグローバルまでのランドスケープに関わる経験を得る。目下、育児を通じ、虫から生物多様性とは命のつながりであることを見る目を養うことに関心を持つ。