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MDGs blog

【MDG2】子どもにやさしい学校とは

ユニセフが提唱する概念である、「子どもにやさしい学校(Child Friendly Schools, CFS)」をご存知でしょうか。

1948年に採択された世界人権宣言第や、1989年の子どもの権利条約は、すべての人が、教育を受ける権利を有すると定めています。

1990年代以降、国際的な教育支援の取り組みを背景に、小学校への就学率は向上しました。1999年から2005年の間に小学校への就学者数は6億4700万人(83%)から6億8800万人(87%)に増加しました。そのうちサハラ以南アフリカでは41%の増加となりました。その結果、学校に行けない子どもの数は2002年以降、劇的に減少しています。

 

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とは言え、途上国で教育をめぐる状況は未だに深刻で、学校に今なお通えないでいる子どもは、南アジアとサハラ以南アフリカを中心に7200 万人います(「EFAグローバルレポート2010」)。また、読み書きができない成人は世界中で7 億4000 万人。その64%が女性です。

子どもが学校に通えるようになるためには、単に学校の設備を整えるだけではなく、現地政府による教育政策の充実やPTAや家族、教会などコミュニティを構成するメンバーも巻き込んで、子どもたちが楽しく通い、そして学習の成果が出る学校作りが必要です。

子どもにやさしい学校は、次の二つを柱としています。

 

1.子どもを捜し求める学校(child-seeking schools)であること

 

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さまざまな事情によって、学校から遠ざかってしまう子どもは大勢います。たとえば農村に住む子どもたち。通学には長い時間がかかり、また通学中の身の安全が保障されていないこともあります。東ティモールで会った子どもは、片道1時間以上かけて小学校に通っていました。

家事を手伝わなくてはならない子どももいます。特に、少女にとって家事手伝いはおおきな負担です。西アフリカのマリの村では、少女の一日は朝の水くみから、家の掃除、薪広い、食事の準備と、学校に行くことはできません。また、病気の家族の看病をしなくてはならないために、学校に行くことができない子どももいます。

子どもにやさしい学校は、そうした事情からこれまで学校に通えなかったり、退学してしまった、または退学する恐れが高い子どもを積極的に捜し出し、学校に通うことができるようにし、学習に参加できるようにします。

 

子どもの権利条約(1989年)

第28条

1.締約国は、教育についての児童の権利を認めるものとし、この権利を漸進的にかつ機会の平等を基礎として達成するため、特に、
(a)初等教育を義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとする。
(b)(略)
(c)(略)
(d)(略)
(e)定期的な登校及び中途退学率の減少を奨励するための措置をとる。
2.(略)
3.(略)

第29条

1.締約国は、児童の教育が次のことを指向すべきことに同意する。
(a)児童の人格、才能並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること。
(b)人権及び基本的自由並びに国際連合憲章にうたう原則の尊重を育成すること。
(c)児童の父母、児童の文化的同一性、言語及び価値観、児童の居住国及び出身国の国民的価値観並びに自己の文明と異なる文明に対する尊重を育成すること。
(d)すべての人民の間の、種族的、国民的及び宗教的集団の間の並びに原住民である者の理解、平和、寛容、両性の平等及び友好の精神に従い、自由な社会における責任ある生活のために児童に準備させること。
(e)自然環境の尊重を育成すること。
2.(略)
2.子どもを中心とした学校(child-centered schools)であること

 

子どもの権利条約にある「子どもの最善の利益」(第3条)を優先する中で、生存・発達・参加・保護に関連した権利はたがいに関連しあうもので、切り離して考えることはできません。学校の運営でも、子どもを中心に考えることが必要となります。
子どもにやさしい学校は、次の5つの重要な要素を満たします。

(1)すべての子どもを排除しない「非差別」であること。
さまざまな事情により、学校から離れてしまった子どもたちが再び就学できるためには、積極的な働きかけが必要です。たとえば、授業についていけず退学した子どもが再び学校に通えるようにするには、教員が適切に子どもをケアできるよう、トレーニングを受ける必要があります。コミュニティや家族の理解を得ながら、すべての子どもが学校に来られるよう配慮して運営をすることが求められます。

(2)学習のために効果的であり、きちんと成果を出せること。
学習効果の上がらない学校では、親が学校に行く意味を見出せなかったり、子ども自身が学校に行く意欲をなくしてしまうことがあります。

学習効果の上がらないのには、いくつか理由があります。教員の能力不足や勤務態度によって十分な教育を受けることができない場合があります。アフリカの国では、学校の数に比べて、教員の数が足りないために、少数エスニック集団に所属するため、授業で使用される公用語が分らず、結果として授業についてこられなくなる場合もあります。

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マリでは、公用語のフランス語での授業を小学校1年生からではなく、高学年になって導入することで、子どもたちが授業にスムーズについていくことができるようにしています。

子どもが学校に通い続けるためには、質の高い教材や学習プログラムを用い、効果的な学習を行えるようにしなければなりません。また、それらを使うことで、子どもを教える教員や学校長自身の「質」を向上させることも重要です。

(3)健康的で保護的であること。適切な飲料水やトイレ、手洗いがあること。

学校に子どもたちが通い続けられるようにするためには、学校の設備の充実も必要です。特に、水回りやトイレ、治安の確保は不可欠です。

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マラウイで手を洗う子ども

さらに、学校に通う子どもの健康にも配慮する必要があります。健康な身体を保てなければ、学校に就学し、通い続けることはできません。

アフリカでは、6人に一人にあたる、毎年1000万人近くの子どもが、5歳未満で死亡しています(最も高いのはシエラレオネで1000人中270人、日本は4人です)。子どもが死亡する原因の多くは不衛生な環境から発生する下痢やマラリア、生前発育不全や出生時低体重、その後の発育障害リスクです。これらの問題に対し、学校では「食事の前に手を洗う」「トイレを使う」「汚れた水は飲まない」などの衛生教育をすることで、子どもの健康を守る必要があります。さらに、栄養が不十分な子どものために、学校で給食を提供することで、子どもが適切な栄養を摂取できるようにします。

マラウイのエイズ孤児センターでは、子どもたちに給食前に石鹸を使って手を洗うよう指導していました。石鹸を使って清潔にしたことで、病気にならなくなったと話した男の子もいました。

また、アフリカの学校では、教員が生徒に暴力をふるう場合があります。少女の場合は、思春期に教員から性的嫌がらせを受ける危険もあります。こうした状況に対し、教員に対する指導を通じて、子どもが安心して、学校に通えるような制度作りを行う必要があります。

(4)ジェンダーに配慮していること。
アフリカに限った話ではありませんが、親が宗教や伝統的な理由から、女の子は教育を受ける必要がないと考えたり、家族の手伝いをするために、学校に来られなかったりと、女児の就学状況は男児のそれより相対的に低い傾向にあります。また、学校に来たとしても、男女別のトイレが設置されていなかったり、教員の少女へのセクシャル・ハラスメントなど、学校に通いにくい場合もあります。子どもにやさしい学校では、男子生徒と女子生徒が差別なく就学でき、学習できる環境を推進するほか、少女に必要な設備の設置や学習プログラム、教科書の作成、学習指導の推進が求められます。

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マリの小学校のトイレ

例えばトイレをとってみると、男女別のトイレの設置は不可欠です。さらに、単にトイレが男女別であるだけではなく、男性トイレ、女性トイレの設置個所も離れておく必要があります。

(5)子ども・家族・コミュニティが参加し、協力すること。
子どもの学習は、子ども一人でできるものではありません。また学校の運営も学校長や教員だけでできるものでもありません。家族やコミュニティの理解や協力が不可欠ですし、子ども自身の意見を反映させて子どもが通いやすい環境づくりを目指すことが必要です。

子どもが積極的に学校に通い、参加するために、学校のクラブ活動、委員会など子ども自身が積極的に学校生活に参加できる態勢を整える必要があります。子どもにやさしい学校では、子どもたちが委員会を通じてトイレ掃除の担当や給食当番などが振り分けられることがあります。

また両親がPTA活動に参加し、学校運営に携わることで、家族の理解を得ることも容易となります。東ティモールの小学校では、両親たちが学校での植樹や、掃除機材作りなどに参加し、子どもたちが通いやすい環境作りに取り組んでいました。さらに、家族自身が子どもの学習の達成をサポートできる状況作りが不可欠です。

また、それ以外にも学校をとりまく教会や保健センターなど、コミュニティの協力も求められます。

「子どもにやさしい学校」のコンセプトは、学校を単なる学びの場としてではなく、子どものあらゆるニーズに対応し、総合的な発達を促す場所とすることを目指し、教材やスポーツ道具の提供から、カリキュラム開発、先生の研修、保健、水やトイレの設備、保護者会や教育の啓蒙活動を含めた総合的な支援活動を指しています。