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MDGs blog

【MDGs】 女性と子どもに優しい経済成長を!

 

東京外国語大学大学院で教鞭をとる舩田(ふなだ)クラーセンさやかさん。2008年、mudefの前身であるプロジェクト「Child AFRICA」の初めてのイベント、MISIAのトークイベントで司会を務めた方でもあり、アフリカ研究者としても意欲的な研究をされています。

そんな舩田さんから、MDGsが定める2015年まであと3年に迫った今、課題は何か、貧困削減をめぐる問題を解説いただきました。


 

アフリカの発展と格差解消なしに、世界の貧困問題の解消なし

でも、女性と子どもに優しい経済成長を!

 

MDGs(ミレニアム開発目標)の筆頭にあげられる「世界の貧困者数を半減させる」という第一目標は、達成年の2015年を前にした現在、中国インドの経済成長により達成の見込みです。全世界の貧困人数の半減という数字上の目標については、めでたし、めでたしとなります。

しかし、MDGsが設定された国連会議で、最も課題とされたアフリカ(これ以降、サハラ以南アフリカを指す)の現状はそのような楽観を否定しています。1990年から2005年の15年間で東アジアでは貧困者の割合が21%から4%と急減していますが、同じ時期、アフリカにおいては58.3%から50.9%とあまり減少していないからです。最新のデータでも、アフリカの貧困者の割合は劇的には改善していません 。急激な人口増加を考慮すると、アフリカにおいて貧困者の総数は減っていないことになります。

アフリカの貧困が一地域の課題を超えて世界的課題になって11年。大々的な国際的努力がなされる一方、昨今のアフリカ経済は、世界中がリーマンショック後の不景気であえぐ中、毎年プラス成長を続けていることは、日本でも報道されている通りです。日本企業のアフリカ進出も活発化してきました。本年および来年度の成長率(予測)は6%であり、アジアと同程度が見込まれています。にもかかわらず、何故貧困者は減らないのでしょうか?

 2010年度の『国連開発目標報告』の冒頭には、次のように書かれています。「前進は見られているものの、その恩恵は平等に行き渡っていません。(中略)MDGs を達成するためには、もっとも弱い立場に置かれた人々にさらに配慮する必要もあるでしょう。富裕層と貧困層との間や、農村やスラムに暮らす人々と比較的裕福な都市住民との間に見られる格差、さらには、地理的な所在、性別、年齢、障害または民族を理由とする根強い、または拡大しつつある不平等を解消するための政策や介入も必要となるでしょう。」

アフリカの経済成長を牽引しているのは、天然資源が豊富な資源国です。ただし、世界規模の資源争奪戦が、2007年の石油価格の上昇や食料危機を起こしたように、資源価格の高騰は、アフリカに繁栄と危機の両方をもたらします。中でも、MDGsがターゲットとしている最貧困層にとっては、資源価格の高騰の恩恵より、打撃が大きいのは先の記事でも取り上げられている通りです。すでにガソリンや食料価格の話は出ているので、作物価格の高騰の影響についてここでは紹介したいと思います。

例えば、私が1994年以来毎年訪れている南東部アフリカに位置するモザンビーク北部農村では、タバコ(葉)価格の高騰により、タバコ栽培が一大ブームとなっています。これによって、農民たちは、これまででは考えられないような大金を手にしています。では、これによってこの地域の貧困は解消されているでしょうか?残念ながら答えは否です。

 

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<タバコ栽培で儲ける青年(26歳)と第三夫人(2010年、モザンビーク)>

 

写真に写っているのは、若く力もある26歳の青年です。タバコ栽培に3年前に取り組むようになって大金を手にした彼が、そのお金でしたことは何だったでしょうか?

最初の妻に加え、2名の妻を娶ることでした。それは文化だという人がいるかもしれません。しかし、伝統的にも2名以上の妻を娶ること(さらにほとんど同時期に娶ること)は極めて稀です。その上、栽培と妻を娶ることに忙しいこの青年は、妻たちにきちんとした家を建てることがなく、妻たちはトイレのない家に住まわされたままです。

ただし、酒を飲まないこの青年の事例はまだましな方かもしれません。なぜなら、ほとんどの男性たちが、手にしたお金の多くをお酒に使っているからです。最近、農村のあちこちに、隣国から流入する強い蒸留酒の販売スタンドが目立つようになってきています。朝から晩まで酒浸り…の男性が目に見えて増えています。

 

 

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<モザンビーク北部農村の道路沿いのスタンド(何でも屋)とオーナーの青年(2010年、モザンビーク)>

 

このように、せっかくの収入も生活改善につながらず、また、十分な労働力を有さないお年寄り、そして伝統的に換金作物栽培で主導権をとることが許されない女性とこれらの若者男性との経済格差が広がっています。影響は、社会関係に留まりません。土の栄養を奪い取ってしまうタバコの栽培によって、土壌の劣化も進んでいます。タバコ栽培ブームに限らず、換金作物による儲けのみにフォーカスした農業政策は、土地や水を奪ったり、汚染する傾向があり、人々がよりどころとする環境の破壊を進めてしまい、アフリカにおいて最も脆弱な層といわれている女性や子供、お年寄りの生活の土台を危うくします。このように、現在のアフリカにみられる経済成長は、目につきやすい都市のエリートと農村の格差だけでなく、農村内部での格差を広げ続けています。

アフリカの経済成長は不可欠です。しかし、発展がこのような格差と生活の質の低下をもたらし、貧しい人たちの最後の命綱である社会的な紐や環境資源を壊してしまうのであれば、それは大問題です。

特に近年、アフリカだけでなく世界各地で、気候変動の影響によって、干ばつが続いたり、大雨が降ったりする傾向がみられます。アフリカ東部(ソマリア・エチオピア、ケニアなど)では、史上最悪の食料危機が多くの子供の命を奪っています。急な気候の変化によって大きなダメージを受けるアフリカ農業では、ある日突然収入がゼロになる、あるいは借金を背負うことになりかねません。その時真っ先にダメージを受けるのは、土地や水、労働力を換金作物栽培に集中的に使った家庭です。中でも、食料不足で真っ先に影響を受けるのは、先にあげたお年寄り、女性、子供たちです。

以上からわかることは、貧困者の数だけを減らそうという政策ではいけないということです。貧困の原因を知り、状況を解消する質にフォーカスした貧困削減に、アフリカも世界も日本も取り組んでいかなければなりません。そのためには、MDGsの目標にも掲げられているように、女性のエンパワーメントや環境保全への取り組みが、国レベルだけでなく、地方レベル、家庭レベルでも不可欠となっています。女性のエンパワーメントを阻害したり、環境破壊を促す経済成長では、持続可能な貧困削減にはつながらないからです。女性と子供に優しい経済成長は、貧困削減だけでなく、栄養状況を改善し、妊産婦や子供の死亡率を下げ、MDGsのあらゆる目標の達成に寄与し、高齢者にも、環境にも、未来にも優しい社会の創造につながるでしょう。

 MDGsの最終年まで後3年に迫りました。残り3年だけを頑張るのではなく、この3年でしっかりアフリカの貧困の問題を質的にも理解し、2015年以降も取り組んでいきましょう。

 

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<小さな弟の世話に追われる少女(2010年、モザンビーク)>
 

 

著者紹介

 舩田クラーセンさやか

東京外国語大学大学院地域文化研究科/准教授。博士(国際関係学)。

大学院在学中、国連平和維持活動(モザンビークONUMOZ)に選挙部門オフィサーとして参加した後、日本政府派遣要員として、パレスチナ、ボスニアの紛争終結直後期における選挙監視に参加。2004年からは日本の対アフリカ政策への政策提言を行うNPO法人TICAD市民社会フォーラムに副代表として参加。日本とアフリカの市民社会のネットワーク構築とアドボカシー活動を積極的に行った。

現在、大学にてアフリカに関心を持つ学生を増やす一方、地域と国際関係の結び目を研究する面白さを伝えていく試みに取り組んでいる。