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【MDG8】**スタッフブログ** 水について考える(3) -実用デザイン編-

途上国はもちろん、先進国においても、世界の人々の命、生活、そして経済を考える上で、最重要事項に「水」の問題があります。

水に恵まれた日本のような国では、なかなか考える機会がない問題の一つに、水源の乏しい国や地域でいかに水を確保するか、ということが挙げられます。

 

水を確保するために

途上国や地域では、約9億人の人が清潔な水にアクセスできていないといわれています。地域によってその原因は様々ですが、原因のひとつに河川が開発やインフラの未整備など様々な条件によって汚染されているにも関わらず、その汚染された川の下流の水が飲料水の源となっているためです。汚染された飲料水を媒体として、毎年推定180万人の子どもが何らかの感染症で命を落としています。

さらに、水資源が乏しい国や地域では、水源自体が数十キロ離れた場所にしかないことも。インフラが未整備の地域では、水くみによって飲料水や生活用水を確保しなければなりません。毎日の生活用水を運ぶ作業はかなりの労力を必要としますが、その水くみの仕事が女性や子どもの仕事になっている場合も多く、その結果、子どもが学校に通えなかったりすることも指摘されます。

そうした問題を解決すべく、多くの先進国や援助団体が井戸の建設や上下水道の敷設を進めていますが、それとはまた違った角度から、水の問題の解決に貢献するプロダクトデザインが数年前から注目されるようになりました。

 

「運ぶ」を改善する

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 丸穴にロープが垂れている形が「Q」に見えることから「Qドラム」と名付けられた、真ん中に穴がある大きな円形の容器は、アメリカのクーパー・ヒューイットで開かれた「Design for the Other 90 Percent(世界を変えるデザイン展)」に展示されたのをきっかけに世界中の注目を集め、日本でも2010年に開催された「世界を変えるデザイン展」で話題となったアイテムです。

このQドラムは、水を入れた容器を、途上国でも手に入る古くなった衣類やロープなどで引っ張って運ぶようにできています。水の運搬はこれまではバケツを使うことが多いのですが、首や腰に多大なる負担がかかっていました。このQドラムは、転がすだけで体に負担を掛けずに頭の上に水の器を乗せて運ぶ何十倍もの量を運ぶことができます。

Qドラムには、真ん中の穴を作る過程が複雑であることや、大量の水を入れて悪環境の地面を転がしても大丈夫な耐久性を備えることが難しいこと、途上国へまとまった数を輸送する場合、輸送費がQドラムそのものの費用を上回ってしまうことなど、様々な課題も挙げられます。

しかしこのプロダクトによる途上国の水の問題の改善に大きな期待が寄せられており、より安く、より多くの人々の手に届くよう現在も様々な模索と改善が続けられています。

 

「作る」を改善する

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素焼きの浄水器「Eliodomestico」の仕組みはとても簡単。太陽の当たるところにこれを置き、水を入れて放置するだけ。

鉄でできた蓋の部分が太陽光で加熱され、中の水は蒸気に変わります。下の容器へ伸びるノズルを通って冷やされた蒸気がきれいな水として流れ落ちるという仕組みです。太陽熱を利用して雨水をきれいにするこの浄水器1台で、1日5リットルの飲料水をつくることができます。

見た目もおしゃれなこの浄水器は、有名ブランド「エルメス」の財団によるデザインコンクール「エミール・エルメス賞」でも、ファイナリスト作品として選ばれました。

現地で調達できる素材やエネルギーを利用していることに加え、水の溜まる容器が現地の文化にならい頭の上に載せられるようデザインされている点、「地元の職人さんでも作れるように」と作り方が公開されている点も評価のポイントだったそうです。
 


「飲む」を改善する

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これはライフ・ストローと呼ばれる、スイスの会社が提供する特殊樹脂でつくられたストロー型浄水器。

主に発展途上国など、水道の整備が遅れている地域での飲料水摂取用途に使われています。ストローを使うことで、内臓されたフィルターが最小15ミクロンまでの不純物を濾過し、
活性炭素で寄生虫を殺菌するという優れもので、サルモネラ菌やブドウ球菌の危険にさらされる確率がぐっと下がります。

安全な水源の確保が進まない地域での緊急用ではありますが、1本で約700リットルの泥水を飲み水へ変えることができます。持ち歩きが簡単で輸送コストも最小で済むという点でも、重宝しそうです。

 

アイディアが未来を繋ぐ

水へのアクセスが改善した地域では、子どもたちの就学率が改善されたり、女性の社会進出が促進されたりと様々な影響が表れています。それだけ、水汲みがとてつもない重労働であり、また、多くの子どもや女性の時間を拘束しているということでもあります。

井戸を掘る、水道を引く、といったインフラの改善は必要ですが、日常の作業を楽にしたり、少しでも状況を改善するために開発されるプロダクトデザインも大切な視点だと感じます。

開発者の想いが詰まったこうしたプロダクトには、「なんで今まで誰も気づかなかったんだ」というものがたくさんあります。こういった発想やプロダクトをうまく活かしながら、水の問題に取り組んでいきたいですね。 

 


[参考]

●Q-drum HP :  http://www.qdrum.co.za/

●Gabriele Diamanti HP : http://www.gabrielediamanti.com/

●Medgadget HP : http://medgadget.com/

 


 

文責:立花香澄