【MDG7】**スタッフブログ** 車とツシマヤマネコ
2012.04.06
小さいころからよく遊びに行っていた川原や峠へ向かう道では、時々こんな標識が見られました。
動物の飛び出しに注意、の標識です。実際に遭遇したことは一度もないのですが、車に突進してきたらどうしようと、見る度にドキドキしたのを覚えています。
動物注意標識
実はこの動物注意標識、様々なバリエーションがあるの、ご存知ですか?
全国のあちこちで数多く見られるのがこれ。
ちょっと郊外へ出るとあちこちで目につきます。
シカの標識は、奈良や北海道などの観光地で頻繁に見られるので、観光に訪れたときに目にしたこともあるかもしれません。
変わり種ではこんなものや…
<カメ…?小さすぎて注意するのは難しそう…>
こんなものもあったりします。
<ペンギン!?どこで!?と思いきや、やはり日本ではなく南極でした。>
これら注意標識の絵柄については規制が無く、管轄の地方自治体で決めているのだとか。そのため、同じ生きものでも地域によって、リアルな描写なものや漫画チックなユニークなものなど、そのバリエーションは様々。
<タヌキだけでもこんなに…!(笑)>
「動物注意」の記載のある標識に関しては、描かれている動物が出てきますよ、ということではなく、動物の飛び出しに注意してくださいね、という意味が込められていますが、中でも飛び出す頻度の高い動物の絵柄が選ばれていることが多いのだとか。
世界のどこに行っても前人未到の地を見つけることが難しくなった今、生き物とのトラブルも増える中で、生きものを守ろうという取り組みとして定着しつつあると言えます。
ご当地限定標識
各地で様々なタッチで同じ生きものが描かれる一方で、地域限定の看板もあります。長崎県のみでみられる標識がこちら。
そう、ツシマヤマネコの飛び出し注意の標識です。
ツシマヤマネコは対馬だけに生息する野生のヤマネコで、大陸が陸続きだったころ渡ってきたベンガルヤマネコの亜種です。そのため、この標識は対馬のみでみられる貴重な標識ともいえます。ツシマヤマネコの生息数は開発による生息環境の悪化などを理由に減少し、現在、環境省が作成したレッドデータブックでは、天然記念物である絶滅危惧ⅠA類に分類されるもっとも絶滅の恐れの高い種に指定されています。
詳しくは対馬視察レポートをご一読ください♪
絶滅を防ぐために
減少の主な理由として、交通事故、環境の悪化、ネコエイズなどが挙げられています。
中でもツシマヤマネコの交通事故は後を絶たず、1992年から2010年までの間に、51頭が交通事故に遭いました。対馬には電車がないため、島に住む人々の主たる移動手段は自動車です。ツシマヤマネコが活発に活動する夕方から明け方にかけて、薄暗い中車からヤマネコの姿がよく見えないために、交通事故が後を絶ちません。
交通事故が特に多いのは秋から冬にかけてです。ツシマヤマネコはこの時期に親離れをして独り立ちするため、若いヤマネコがすみかを求めて島内を歩き回ります。独り立ちして間もないために、車をよける知識も経験も十分でないため、事故に遭う確率が高くなってしまうのかもしれません。
そうした事態を改善するために、島内にはツシマヤマネコに関する色々な警戒標識が見られます。母親が事故に遭うと、その子どもが成猫になる確率はぐっと下がってしまいます。1頭の交通事故が数頭のツシマヤマネコの命に関わる可能性も高いのです。年間の事故による死亡を1頭減らすことで、100年後に絶滅する可能性が半分になり、3頭減らすと10分の1になると言われています。
ちなみに日本に生息するヤマネコは2種のみで、もう1種は沖縄のイリオモテヤマネコです。ツシマヤマネコを知らなくても、イリオモテヤマネコの名前は聞いたことのある人も多いのではないでしょうか。
イリオモテヤマネコは、地元では目撃情報があったものの、貴重な動物としては認識されておらず、長年未解明のままでした。当時新聞記者だった動物文学者である戸川幸夫氏の努力によって、正式に「新種」として発見されたのは、1965年。20世紀になってからヤマネコ程度の大型ほ乳類の新種は世界的にもほとんど発見されていなかったために、イリオモテヤマネコの発見は学術的に見て非常に大きな出来事でした。そのため「20世紀の学術的な大発見」としてマスコミに取り上げられ、全国的にも認知度が上がりました。
<ツシマヤマネコよりも顔が長いので、精悍な印象です>
それに比べてツシマヤマネコは、かなり昔から認知されていました。日本では、「猿」と言えばニホンザル、「狐」と言えばアカギツネ、「山猫」と言えばツシマヤマネコの事を指す、と言われるくらいなじみ深い動物だったのです。そのため数が減ってきていることにもそれほど注目されることなく、絶滅危惧種に指定されるまでになってしまいました。
貴重な生き物たちを絶滅させないため、ともに生きていくために、どうすればよいかを真剣に考えていくことが必要です。
[参考]
・『ツシマヤマネコって知ってる?-絶滅から救え!!わたしたちにできること』 太田京子著
・対馬野生生物保護センターHP http://kyushu.env.go.jp/twcc/
・西表野生生物保護センターHP http://iwcc.a.la9.jp/