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【MDG5】**スタッフブログ** 妊婦を救う放置自転車?

放置自転車の目立つ駅前に、子どもたちが描いた絵を路面に貼ったことで、放置自転車が激減した、という話をご存知ですか?

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これは2010年11月から大阪市で始まった取り組みです。地元小学生から「歩道は駐輪場ではありません」などとメッセージの入った違法駐輪追放を訴える絵を募集。集まった作品を特殊なシートに加工して、特に放置自転車が目立った駅周辺の歩道に貼りつけました。子どもたちが一生懸命描いた絵の上には置きにくい、という心理からか、この試みで場所によっては9割近く減ったところもあるのだとか。

大阪市は放置自転車の数が全国ワースト1というあまり自慢できないランキングにありました。しかしこの取り組みによって、放置自転車の数は、2009年には約4万2,000台だったのが3万2,000台にまで減少(内閣府調査による)。しかしそれでも、2位である横浜市の約1万8,000台の倍近い数となります。2011年度も引き続き市内でこの取り組みの区域を広げ、効果を上げているようですが、依然ワースト1の汚名は返上できていません。

 

放置自転車の末路

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近年の自転車ブームは目覚ましいものがあります。自転車に乗ることは、健康的で地球環境にも優しいはずなのですが、反面、様々な社会問題を引き起こしています。

中でも放置自転車の問題は、各自治体が頭を悩ませています。人通りの多い駅前などに放置された自転車は、駅やその街の美観を損ねイメージダウンにつながります。また、歩行者の通行を妨害し大きな迷惑となりだけではなく、特にお年寄りや体の不自由な人にとっては、放置自転車があることで歩道が歩きにくくなり、その結果安全な移動が困難になる可能性もあります。災害時の避難や緊急車両の交通の妨害も心配されています。

多くの自治体は撤去した自転車を集積所等で保管するシステムを導入しています。しかし、撤去された自転車の引き取りにお金のかかるところも多く、撤去された自転車を引き取らずに新しい自転車を買ってしまう人も少なくありません。こうした放置自転車の廃棄は、2011年時点で54万1,000台に達すると概算されています。

資源の無駄遣いであることはもちろん、廃棄にかかる費用は税金で賄われていることを考えると、いくら自転車が地球に優しいと言われても素直に頷けなくなってしまいます。

 

問題の解決のためには根本の私たち一人ひとりの意識の改善が必要であるとともに、自転車に対応した街づくりをする、ということも各所で課題に挙がっているようですが、今回ご紹介するのは、放置自転車の有効活用の取り組みです。

 

放置自転車を途上国へ

国際協力NGOジョイセフと全国12の地方自治体で構成される「ムコーバ(再生自転車海外譲与自治体連絡会)」では、放置自転車を集め、企業やボランティアの協力のもと再生し、ジョイセフが支援している開発途上国に寄贈する取り組みを行っています。

この再生自転車は、開発途上国の診療所の数が不足し、妊娠や出産の際に搬送手段がない村々に届けられ、助産師や保健推進員に贈られます。助産師や保健推進員は自転車を利用して妊産婦を診療所に搬送したり、妊産婦の家庭を訪問して健康教育を行います。1人の保健推進員や助産師が1台の自転車を手に入れることで、600~800人の村人に対して基礎的な保健医療活動を行えるようになるともいわれています。

 

途上国の妊婦さんの現実

世界では1分に1人の割合で、妊娠や出産が原因で命を落とす女性がいます。その99パーセントは開発途上国で起こり、出産可能年齢女性の主な死因となっています。妊娠や出産という、人間としてごく自然な営みのために、年間53万人の妊産婦が尊い命を落としている…発展途上国の女性たちにとって、出産はまさに命がけの仕事です。そして、過去20年以上もの間、この妊産婦の死亡率はほとんど下がっていないという事実があります。

途上国における妊産婦の死因は、妊婦さんの栄養不足、出産時の不衛生な環境、医療サービスの欠如、社会的な因習など様々ですが、道路などのインフラの不備や移動手段の不足も大きな要因の一つです。

出産の際に助けが必要でも、開発途上国の多くの地域は無医村で、知識のある人もいません。診療所が近くにあればよいですが、片道何十キロも離れており、駆けつけようとしてもその道のりを妊婦自身が歩いたり、あるいは誰かにおぶって貰わなければたどり着けない場合のほうが多いのです。医療の設備や技術が十分でない開発途上国においては、少しでも早く診療を受けることが非常に重要になりますし、そもそも近くに診療所がないがゆえに出産するまで一度も診療を受けたことがなかったり、知識もないままに自力で出産してしまい、その傷などが原因で命を落とす妊婦も多くいます。 

そうした妊婦さんのケアのために、この再生自転車が活躍しているのです。

自転車は、車と違い燃料などの維持費がほとんどかからず、それでいて徒歩の3倍以上のスピードで移動が可能です。重いものを運ぶ際に人体に掛かる負担も激減します。再生された自転車を受け取った地域では、「命を救う足」「神様の贈り物」などと呼ばれるくらい、村人の健康と命を守る活動に貢献します。

 

大阪から東北へ

2011年3月の東日本大震災でもこの放置自転車は活用されています。全国ワースト1位の大阪市の放置自転車が、被災地へ送られたのです。

これは同年の3月下旬に、燃料不足で車両による移動が困難になった岩手県釜石市からの「自転車を提供して」という要請に答える形で実現されました。大阪市から無償で提供された利用可能な放置自転車は、企業の協力によって被災地へ運搬され、避難所等で有効活用されました。こうした取り組みは大阪市以外にも多くの自治体が実施しており、車の利用が困難だった被災地での一助になりました。

 

廃棄されてしまう放置自転車を減らしていくことが一番大切ですが、出てしまったものを活かしていくことも、並行して考えていきたいですね。それが遠い途上国で母子の命を救う手助けになるのは、とても繋がりを感じる取り組みです。

 


[参考]

・大阪市 http://www.city.osaka.lg.jp/

・国際協力NGO  ジョイセフ http://www.joicfp.or.jp/jp/

 


 

文責:立花香澄