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【MDG7】**スタッフブログ** 北極を開くべきか、守るべきか

地球温暖化によって北極の氷が減少していることは、ニュースでも多く取り上げられているので、「聞いたことがある」という人は多いかと思います。

2007年の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書によると、北極圏*の海氷面積は10年ごとに平均2.7%縮小しているそうです。

海氷の減少により、あらたな航路や資源の開発の可能性が高まっていることをご存知でしたか?

北極圏をめぐる各国の思惑はすでに、様々な形で表面化しています。ロシアとカナダはそれぞれ北極点までの権益を主張し、中国も資源や北極海航路に強い関心を示しています。

*北極圏:北緯66度33分以北の地域。夏に太陽が沈まない白夜、冬に太陽が昇らない極夜が生じる。広さは、日本の面積の約25倍に当たる約950万平方キロメートル。ロシア、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、アイスランド、デンマーク(グリーンランド)、カナダ、米国の8カ国を含む。カナダのイヌイットなど40以上の民族が住み、圏内の人口は約1300万人とされる。

 

北極海航路と未発見資源

海氷の減少で夏場の航行が比較的容易になった「北極海航路」に、今、注目が集まっています。北極海航路とは、北極海を通り、太平洋と大西洋を結ぶ航路のこと。この航路を使うと、日本と欧州の距離はスエズ運河経由に比べ6割程度になります。北極海航路には、ロシア北方を通る北東航路と、カナダ北方を通る北西航路がありますが、今後、海氷の減少で開発が進みそうな北西航路、さらには北極点近くを通る中央航路にも注目が集まっています。

また、米地質調査所は、世界の未発見埋蔵量のうち石油が13%、天然ガスは30%が北極圏にあると推計しており、この資源に対し、各国が開発権主張を活発化しつつあります。

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各国の動き

北極海航路の「西の玄関」にあたるロシアのムルマンスク州では、地元の期待も大きく、航路の活用に積極的と言われています。貨物の積み替えなどの拠点港として、また航行船舶を先導する原子力砕氷船の母港として発展する可能性があります。

中国は、2013年12月、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、アイスランド、フィンランドの5カ国の北極研究機構と、「中国-北欧北極研究センター」を上海に設置することを合意しました。この背景には、北極海の海底に眠る金やダイヤモンド、石油、天然ガスなどの資源と航路の開発という中国の狙いがあると考えられています。

カナダでは、北極海沿岸への幹線道路の建設工事がはじまります。季節を問わずに通行可能な道路で、建設費用は1億8500万ドル(約190億円)だそうです。予定通り2018年に工事が完了すれば、陸路で北極にアクセスできる北米最北の地点となります。

南極条約で軍事活動が認められない南極と異なり、北極では他国の領海以外ではいずれの国も軍事活動が可能とされています。北極圏開発戦略の立て直しを図っている米国は、特に安全保障上の危機感を強めており、権益拡大を目指す姿勢を明らかにしています。

日本は、北極圏への対応に出遅れていましたが、海洋政策研究財団(東京)がプロジェクトチームを立ち上げ、国土交通省、文部科学省も参加し、北極海の観測のために新たに砕氷船を建造する具体的な検討がはじまっています。今後、これまで以上に極地研究が進むと予想されます。

 

環境への影響

氷が解けることで北極圏の開発に期待が集まる一方、環境への影響は無視できるものではありません。

海氷は太陽の熱を反射することで低い気温を維持します。しかし、地球温暖化によって氷が解けると、太陽の熱が直接海水を温めるので、海氷はさらに減少します。

北極海の氷が解けるにつれ、北極地域の気温は上昇し、これにより、北極圏を取り囲むようにして流れている極夜ジェット気流が弱められるそうです。このジェット気流は通常、時速100マイル(161キロ)にも達する風速で北極の周囲を囲み、北極圏にある極寒の大気を定位置に収めていますが、ジェット気流が弱まると、一部の寒気が北極から抜け出し、最近米国を襲った大寒波のような現象が起きると言われています。

北極圏で起きる現象は日本の気候にも影響を及ぼすという研究結果もあります。バレンツ海(北極海の一部)の海氷の減少によって低気圧の通り道は北寄りになるとされています。これにより、シベリア上空の高気圧が勢力を拡大させ、日本の冬の寒さが厳しくなるそうです。

また、地球温暖化による北極圏の永久凍土(常に凍結している土壌)の融解も懸念されています。

英科学誌ネイチャー(Nature)は2013年、永久凍土の融解が進めば土壌に含まれるメタンガスの大量放出で温暖化が加速し、世界の気候や経済に壊滅的な損害をもたらすとする論文を発表しました。

また北極に住む生きものへの影響も計り知れません。ホッキョクグマやアザラシの個体数の減少はすでに報告されており、生態系への影響が懸念されています。
※SATOYAMA BASKET 「識る-ホッキョクグマ」でもホッキョクグマの絶滅危惧についてご紹介しています。

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開発と保護

1996年、北極圏に領土を有する8カ国により北極評議会が設立されました。評議会は環境の保護に加え、北極圏での持続的な開発を実現するため各国の政策調整を図ることを主な目的としています。

ただ、加盟国それぞれの思惑もあり、今後、評議会がどれだけ指導力を発揮できるかについては、疑問の残るところもあるようです。

今後、評議会の加盟国をはじめ、北極圏の資源に目を向ける各国が、「持続可能性」や「自然環境の保護」を考慮しながら、互いに協力して開発を進めていくことが重要なのではないでしょうか。

 

2014年1月31日