mudef - Music Design Foundation -

MDGs blog

【MDGs6】**スタッフブログ**世界マラリアレポート2013(World Malaria Report 2013)

 

 

 

WHO(世界保健機関)より「世界マラリアレポート2013(World Malaria Report 2013)」が発表されました。

世界中のマラリアに関する報告や分析結果をもとに公表された「マラリアレポート2013」を和訳したので、ぜひご覧下さい。

 

                                 

マラリアレポート2013 

概要と要点

 

2013年の世界マラリアレポート(The World Malaria Report 2013)は、マラリア発生国やその他の情報源から提供された情報を取りまとめたものであり、2012年度版報告書を改訂したものである。それは、2015年を期限として設定された世界的なマラリア制圧に向けた目標の進捗状況に焦点を当てており、マラリア予防と制圧に向けた最新状況について報告している。

 

2000年以降、マラリア予防プログラムに対する投資と規模の拡大は、世界規模でマラリアの発生と死亡率の減少に大きく貢献した。報告によれば、2000年にミレニアム開発目標(MDGs)が設定された時点で、マラリア発生国であった103か国のうち59か国がマラリア発生率の減少に成功した。そのうち52か国は、Roll Back Malaria (RBM)と世界保健機構が設定した、「2015年までにマラリアの発生率を75%削減する」という目標に到達すると考えられている(そのうち8か国がアフリカ地域)。41ヶ国については、過去の不正確なデータのため、正確にマラリア予防、制圧状況や現場の治療や保険サービスを測定することは困難である。また、それらの国では、2000年に報告されたマラリア症例の約80%がマラリアの発生についてマラリア発生件数と死亡率で推測する必要がある。

 

世界中で、2000年から2012年までのマラリアの死亡率の推測は、すべての年齢層で42%までに落ち、5歳未満未満の子どもにおける死亡率は、48%減少した。過去12年にわたるマラリア発生件数の減少の割合を維持できれば、2015年までにマラリアの死亡率は全ての年齢層で52%減少し、5歳未満の子どもの死亡率は60%に減少することが推測される。この事は、世界保健総会が設定した、2015年までにマラリア死亡率を75%減少させるという目的に向けた、大きな成果を意味している。

報告書におけるモデルでは、2001年から2012年の間に330万人がマラリアによる死亡を免れ、そのうち69%は、2000年にはもっともマラリアが発生していた10か国に居住していた。したがって、最もマラリアによる被害が高い国の進捗につながった。また、予防できたと推測される330万のうち、90%にあたる300万人は、サハラ以南アフリカに暮らす5歳未満の子どもであると推測されている。従って、マラリアの減少は5歳未満の子どもたちの死亡率を(1990年から2015年までに)減らすというMDG4の目標に貢献し、目標に向かい、実質上の進歩となった。

 

それにもかかわらず、2011年から2012年にかけて、マラリア死亡率の減少の速度は減少傾向にある。この遅れの原因のひとつは、アフリカにおいてマラリアにおいて死亡率の高いと考えられる5歳未満の子どもに対し、殺虫剤処理済蚊帳(insecticide-treated nets: ITNs)を投入したことも弾みとなってマラリア死亡件数が減少したものの、2011年から2012年にかけてITNの配布エリアがマラリア予防に対する予算の減少により縮小したこともある。2012年には、マラリア関連事業に対する資金は、世界全体で必要とされる51億ドルの半分以下になると考えられている。よって、いまだ殺虫剤処理済蚊帳や室内残効性スプレー剤(IRS、Indoor Residual Spray)やアルテミシニン併用療法(ACT)によって予防、治療の恩恵にあずかれない人が数百万にも達すると考えられる。結果として、推定2億700万(135,000,000~287,000,000)とマラリアによる死亡627,000(470,000~789,000)が2012年に発生すると予測されている。マラリアの発生件数と死亡の削減という世界的な目標を到達するためには、マラリア予防のために資金増加と制圧計画の範囲拡大が緊急に求められる。

 

開発政策

 

いくつかの新しい、改訂されたマラリア予防政策、運用マニュアル、計画、イニシアティブは、2013年にWHOのマラリア政策の諮問委員会(MPAC)の会議に次いで公開された。

 

1.2012年に活動を開始したマラリア政策助言委員会は、2013年も引き継ぎ、全てのマラリア予防と制圧の側面で戦略的助言と技術的介入の権限をWHOが委ねている。MPACにおける韓国に従い、WHOは世界的な範囲に到達することを含めた、長期残効型殺虫剤処理済蚊帳(LLINs)の普及やベクターコントロールにおける能力育成を含める様々な政策分野へ進出した。

 

2.WHOではその他、2013年に指導要綱を発行しているが、そこでの内容は下記の通りである。

(1)インシュリンの受容体基質の運用マニュアル

(2)幼虫の発生源を管理するための運営マニュアル

(3)マラリアを保有する蚊の生態の観察

(4)現場で季節マラリア化学予防(SMC)の指導

(5)重度のマラリアの手当てに関する手引き

(6)メコン川領域の住民に対する抗アルテミシンの対応に関する行動枠組み

(7)現場の複雑な緊急時(いくつかの関連性がはっきりした)のマラリア予防の手引き

(8)3つのトレーニングマニュアル

 

マラリア予防への拠出

 

国内外でのマラリア予防への公約拠出は2012年は約25億USドルだった。この拠出額は世界的な目標に到達するために必要とされる総額より少ない。

 

3.マラリア発生国に対する国際的な支出は、2000年の1億USドル以下から2011年の16億USドルに、そして、2012年の19億4000万USドル、2013年の19億7000万USドㇽと、大幅に増加している。しかしながら、近年では国際的拠出は減少傾向にあり、2005年から2009年の間に43%増額したのに対し、2009年から20013年にかけて年間平均4%の増額にすぎなかった。

 

4.世界的なマラリア拠出金は、2005年の4億3600万USドルから2012年の5億2200万USドルと増加傾向にある。マラリア発生国政府は2005年から2012年にかけて、マラリアに支出する予算は4%の

 

5.2011年から2020年にかけて、RBM(Roll Back Malaria)によるマラリア予防のために必要とされる拠出額は、年間51億USドル超と推測された。国内と世界の資金を合わせると、マラリア予防に使える資金は、2012年は推定21億USドルであり、26億USドル不足した。2013年から2016年にかけて拠出額は、約28.5億USドルに過ぎず、これは、マラリア制圧のために必要とされる金額よりも下回っている。

 

6.世界のマラリア予防への拠出は、マラリアの死亡率の高く国民の所得が低い国、中でもアフリカを対象としている。しかしながら、各国政府のでも裕福な国々はマラリア予防への取り組みが高く、マラリアの死亡率が高い国では政府がマラリア予防、制圧のために取り組む予算は低い状況にある。マラリア発生が高いにもかかわらず支出が多くはない国は、国内の所得が低いことに由来する。

 

7. 類似の予算規模を持つ各国政府によるマラリア予防の取り組みには、ほかの国と比較して、2000年から2012年の間にマラリア発生件数を減少させるために努力するという、優先順位がおかれている。

 

マラリアに感染したハマダラ蚊(マラリアベクター)の制御(ベクターコントロール)の進歩

 

サハラ以南アフリカでは、殺虫剤処理済蚊帳(ITN)殺虫剤処理済蚊帳を持つ人は、2005年から2011年にかけて劇的に増加したが、ここ2年間では、この割合が一定になっており、2013年には42%となった。今後2年間は、殺虫剤処理済蚊帳ITNの配布を増やし、配布完了エリアを拡大することが求められる。

 

殺虫剤処理済蚊帳(Insecticide-treated mosquito nets, ITN

 

 

8.2012年までにアフリカ地域の34の国と世界の83か国で、WHOが推奨する殺虫剤処理済蚊帳をマラリア感染の恐れがある全ての人に配布した。アフリカ39か国を含めた、88ヶ国で殺虫剤処理済蚊帳を無料で配布した。

 

9.毎年、少なくとも1.5億の殺虫剤処理済蚊帳をマラリア感染のおそれがある世帯に配布することが、年間合計4.5億枚の殺虫剤処理済蚊帳の配布を3年ごとに配布をサハラ以南アフリカで実施するためには必要とされる。2004年から2010年の間に、マラリア流行地域のサハラ以南アフリカ地域へ工場から年間運ばれたITNの数は年600万張だったものが、1億4500万張に増加した。しかしながら、2011年に配布された殺虫剤処理済蚊帳はたった9200万張であり、そして、2012年には、たった7000万張に過ぎなかった。2013年には1.36億張と予測された殺虫剤処理済蚊帳の配布数と2014年のおよそ2億張という数は、マラリアに感染するリスクのあるすべての人々を毎年守るために必要な総数と同数である理済蚊。しかしながら、年間の配布数は増えているのもかかわらず、2012年から2014年にかけて約4億張を配るという3年間の計画で配布されたITNの数は今なお少ない。適切な殺虫剤処理済蚊帳の配布は1年1度、マラリア感染のリスクのある人全ての家庭でITNが適切に使用されているかの確認など、毎年の確認が求められる

10.サハラ以南アフリカでは、最低1張の殺虫剤処理済蚊帳を持つ世帯割合は2000年の3%から2012年の56%までに上昇したが、2013年には、53%まで減少した。同時期には殺虫剤処理済蚊帳の使用する世帯の平均人口は、2013年には42%にまで増加している。殺虫剤処理済蚊帳を用いて寝る人が人口に占める割合は、マラリアを予防できている人の割合と直接に関連しており、2013年に36%になると推測されている。

 

11.殺虫剤処理済蚊帳の利用者と殺虫剤処理済蚊帳の下の睡眠の割合を比較することは、蚊帳を実際にする使用の高さ(86%)を示しており、殺虫剤処理済蚊帳の普及のための努力を意味する。蚊帳を適切に利用していないことは、マラリアに感染するリスクのある人が蚊帳の下で眠る数を増やす最大の圧力である。

 

12.妊婦や5歳未満の子どもなど、もっとも脆弱な人口の殺虫剤処理済蚊帳の使用は、全体の人口の中でも多い。この社会的に脆弱な集団は、殺虫剤処理済蚊帳の普及活動の拡大によって保護されるべきであり、マラリア感染のリスクのある全ての人の中でもとりわけ殺虫剤処理済蚊帳の利用の増加の必要性が求められる。

 

屋内残留殺虫剤噴霧屋内残留殺虫剤噴霧(Indoor residual spraying, IRS

 

 

13.IRSはマラリアの削減と伝染を阻止することで媒介蚊を駆除できる力強いツールである。2012年には、40のアフリカの国を含む88ヶ国で、マラリア制御のために屋内残留殺虫剤噴霧IRSが実施された。

 

14.2012年には、マラリアに感染するリスクがある1.35億人(世界人口の4%に該当)が世界各地で、屋内残留殺虫剤噴霧屋内残留殺虫剤噴霧によってマラリアから守られた。アフリカ地域では、マラリア感染のリスクのある人口の割合は、2005年の5%以下だったのが、2010年の10%に上昇した。しかし、2012年に8%に減少し、IRSによる防御策を享受できたのは、5800万人に留まった。アフリカにおけるIRSによるマラリアを予防する取り組みが減少したのは、ひとつにはピレスロイド(殺虫剤の一種類)に耐性を持つ蚊の脅威に対応するために、IRSの限られた予算の範囲内で、非ピレスロイド殺虫剤を使用したことでコスト高となったことが挙げられる。現在推奨されているLLINsはピレスロイドを用いているため、非ピレスロイド系のIRSを推進吸うことは、ピレスロイド耐性蚊の駆除のためには非常に重要になると考えられる。

 

抗マラリア薬耐性を持つマラリア原虫Insecticide resistance

 

 

15.世界中で少なくともマラリア予防のために使用される少なくとも一種類の殺虫剤に耐性を持つ蚊は、マラリア流行国のうち少なくとも64か国で確認されている。2012年5月には、ベクターコントロールを目的に、WHOとロールバックマラリア(RBM)は、抗マラリア薬耐性蚊の管理に関する世界的計画(GPIRM)を公表した。GPIRMは、抗マラリア耐性の脅威に対処するために5つの戦略を設定している。世界的なマラリア対策に関する主要関係者たちはGPRIMを実行するための活動をすでに始めている。

 

16.抗マラリア薬耐性蚊の監視は、殺虫剤に基づくベクターコントロールの取り組みに欠かせない要素である。2012年には、計58ヶ国が、抗マラリア耐性蚊を監視する恒常的手法の実施を採用している。

 

化学予防の進歩

 

アフリカ諸国からのWHOへの報告書の中で、2012年には少なくとも1回は間欠予防治療(Intermittent Preventive Treatment for pregnant women:IPT)を服用する、妊婦管理に参加した妊婦の諸国の平均値は、64%であり、38%に妊婦が少なくとも2回、そして、23%の妊婦が少なくとも3回服用していた。これは、妊婦保護の観点から、大きな成果である。

17. サハラ以南アフリカでは、およそ3500万人の妊婦と、推定2600万人に上る大半の新生児が間欠予防治療の恩恵を受けている。加えて、サヘル地域(サハラ砂漠南縁部に広がる半乾燥地域)に暮らす約2500万人の子どもは季節マラリア化学予防によって保護されている。

 

18.マラリアの感染が高いサハラ以南アフリカの計36ヶ国のでは、2012年末までに国家政策として間欠予防治療を実施した。この政策は2009年に、パプアニューギニア(西太平洋地域)でも適応された。

 

19.マラリアの感染の程度が高い、アフリカの36か国中26か国で、国家政策としての間欠予防治療が採用されており、この結果に関するデータは活用可能である。2012年には妊産婦検診(ANC)に参加した妊婦の各国平均64%が、少なくとも1回、38%が少なくとも2回、23%が少なくとも3回間欠予防治療による服用を行っていた。2010年から2012年の世帯調査が利用可能なアフリカの13ヶ国では、間欠予防治療による服用を妊娠中に受けた妊婦の加重平均は、37%であり、23%が2回、8%が3回受けていた。

 

20.2010年の10月以降、WHOは妊娠初期の後の予定に基づいた妊産婦訪問の際に間欠予防治療行うことを推奨している。世帯調査の結果、間欠予防治療を受けた妊婦の割合は、妊産婦検診を受けた女性の割合より低いことが判明している。妊産婦訪問時の間欠予防治療を行う割合も72%と高くない。妊産婦訪問時の間欠予防治療を行う割合は、破傷風トキソイドを受ける割合よりも低い。今の妊産婦訪問時に出生前の予防サービスを行う能力は高い高いと示し、出生前予防治療への壁は打ち勝つことができるだろう。

 

21.サハラ以南アフリカの国々で中から高程度のマラリア感染の可能性があり、熱帯熱マラリア治療用に推奨されているスルファドキシン/ピリメタミン(SP【訳者注:スルファドキシンはマラリア原虫の葉酸生合成を阻害し,ピリメタミンは葉酸還元酵素の酵素活性を低下させ,その活性化を阻害して抗マラリア作用を示す. 両剤の併用によりマラリア原虫の葉酸代謝の連続した2箇所を同時に阻害するため相乗的な作用を発揮する】)への耐性を持たない、熱帯熱マラリア原虫感染症の恐れがあるすべての乳児は、ルーチンワクチン(【訳者注:その国の国民で、その年代の人間であれば、当然接種済みであるとみなされるワクチン群】)接種のスケジュールに対応する、国内で確定された間隔をあけた接種サービスを受けることを通じて、マラリア予防治療を受けるべきである。ブルキナファソは、乳児のための間欠予防治療という国家政策をWHOが2009年に推奨して以来採用している唯一の国である。

 

22.2012年の3月には、WHOは3~59ヶ月の子どもたちのための季節マラリア化学予防(SMC)のを推奨し、2013年の8月に、SMCを実行するためのフィールドガイドを発表した。マラリア発生国2か国ではSMCを採用しているほか、政策評価を実施している複数の国では、研究対象としている人口をカバーできるようSMCを採用する予定である。

 

診断検査とマラリア治療の進歩

簡易診断テスト(RDT)の調達とアルテミシニン併用療法(ACT)の急速な浸透によって、アフリカ地域の公共セクターにおける簡易診断テストの使用の割合は報告によれば、2010年の37%から2012年の61%まで増加した。結果として、マラリアの疑いのある人に抗マラリア剤を使用することが減少した。しかしながら、マラリアの疑いのある何百万人もの人が未だに診断テストを受けることができず、そして、マラリアに感染した沢山の人が、適切な薬の適切な治療を受けることができないでいる。

 

診断テスト

23.公共セクター、民間セクター共に世界共通の診断テストを実施する事は、世界的に必要とされる抗マラリア治療が削減されることを意味する。2012年には、アフリカ地域におけるマラリア感染国44ヶ国の41ヶ国、その他のWHO支援対象地域の55ヶ国中49ヶ国で寄生虫学的診断を全ての年齢グループに実施されたことが報告された。これは、2009年にアフリカ地域の6ヶ国で行われたものより多く行われている。

 

24.世界85ヶ国ではマラリア診断テストが公共セクターで無料で提供されている。2010年から2012年まで、アフリカ地域の公共部門でマラリアに感染しているかどうか、診断テストを受ける割合が37%から61%に増加し、世界的にも44%から64%に増加した。アフリカ地域のテスト実施数の増加は、RDTの実施数の増加起因しており、2012年には同地域における実施割合は40%に上った。

 

25.患者の多くは顕微鏡検査でマラリアかどうか審査されるが、この数は、2012年には1億8100万人に上っているほか、インドでは、血液塗抹検査を受けた人口は1億2000万人に上る。製造業者が提供するRDTは2010年の8800万個から2012年の2億500万個にまで増加した。これは、熱帯熱マラリアかどうかを特定するテストと、一種類以上の寄生種を見つけ出すことができる混合テストの売上の増加を意味している。

26.計48ヶ国がRDTをコミュニティレベルで実施しており、2012年にこのプログラムを通して、1500万人がテストを受けたと報告された。2010年から2012年にかけて14か国で集められた世帯調査は、診断テストは私的セクターよりも公共セクターで広く実施されていることが分かった。

 

27. 医療施設で三日熱マラリアの疑いも含めてマラリアかどうかを判断するのにRDTはますます使われている。42ヶ国の間のRDT実施報告では、15ヶ国で、RDTの実施によって特に三日熱マラリア患者の特定につながったことが報告された。これらの国では、RDTによって特定された三日熱マラリア患者の割合は(顕微鏡検査によって診断されたものよりもむしろ)熱帯熱マラリア患者の特定の割合とほぼ同数であった。

 

治療

 

28.最も恐ろしい人間に感染するマラリア原虫感染である熱帯熱マラリア原虫によるマラリアの第一選択治療法として、アルテミシニン併用療法(ACT)は推奨されている。2012年までに、79の国・地域は、ACTを熱帯熱マラリア原虫の第一選択薬に採用した。三日熱マラリアへの治療では、はクロロキンでの治療が効果的な地域ではクロロキンによって治療されるべきであり、クロロキン耐性を示す地域では適切なACTが必要である。三日熱マラリア治療では、再発予防のために14日間のプリマキン療法と合わせたシゾートシダール抗マラリア薬を服用する必要がある。

 

29.製薬会社と抗マラリア薬配布プログラム(AMFm)イニシアティブの報告によると、公共セクターと民間セクターに届けられるACTは2005年の1100万個から2006年の7600万個に増加し、2012年には3億3100万個に到達した。2012年の公共セクターにおけるACTの調達は2011年から2011年の間でおよそ50%増加した。AMFmイニシアティブを通じて、公共セクターと民間セクターに調達される薬は、現在、2011年の1億5600万もの一連の治療から2012年の1億5000万の治療にすることを述べている世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)による補助金に段階的に統合される予定である。

 

30. 世帯調査と保健医療情報システム(HIS)双方で診断テストと治療をつなげる情報が制限されているため、マラリアであると診断された患者が、抗マラリア薬を受け取ったかどうかを追跡するのは困難であった。ACT(より効果的な抗マラリア薬)で公共セクターを通じて治療を受けた患者の割合は、国家マラリア予防対策プログラム(NMCPs)によって配布されたACTとテストを受けずにマラリアであると診断された患者数と顕微鏡検査かRDTによって熱帯熱マラリアであると診断された患者数との比較によって推定することとなる。この割合はWHOの地域によって変動するが、アフリカ地域では増加傾向にあり、2012年にはACTを受けた患者の割合は60%に到達した。

 

31.2006年と2012年の間にかけて実施されたアフリカ9か国における世帯調査では、ACTを含む抗マラリア薬を投与された発熱した子どもの割合は公共・民間セクター共に増加していた。最新の調査では、ACTを受けた子どもの割合の平均値は68%に上った。しかしながら、一部の子どもは、風邪の治療を施されていなかったり、マラリアの疑いのある子どもたち全てが診断テストを受けられた訳ではなく、マラリアに罹ってACTを受けることができた子どもの割合は、実質的には低い。2010年から2012年までに実施された26の世帯調査によれば、マラリアであるとされてRDT陽性であると診断されたマラリアに感染した子どもでACTを受けることができたのは、16%(1%から42%)にすぎない。発熱した子どもへの治療の対応はあらゆる場面での適切な診断テストと治療管理と同様に重要であり、あらゆるマラリア患者がみな迅速で有効な治療を受けることを保証するためにも必要である。

 

32.2012年にアフリカ地域では、テスト(顕微鏡検査とRDTの両方)の総数は、NMCPsによって配布されたACTとほぼ同数である、前年に比べて増加した。しかしながら、最もマラリアの発生する地域では、マラリアであることが判明しACTが必要とされるにもかかわらずACTにアクセスできない人口が半数近くに上るので、比率は2割を超えるだろう。

 

抗マラリア薬耐性

33. WHOは、経口アルテミニシン単独療法を段階的に市場から撤退させ、2007年に世界保健総会によって支持されたアルテミシニン併用療法へ切り替える。すでにアルテミニシン単独療法の製品販売を許可する国は、2008年の55ヶ国から2013年11月には9ヶ国にまで減少している。これらの9ヶ国のうち、6ヶ国はアフリカ地域である。同商品を販売する製薬会社の数は、2010年の38社から2013年の30社にまで減少した。これらの薬の販売はその多くがアフリカ地域で行われているが、製造工場の大半はインドにある。

 

34.治療の効能に関する研究は、医薬品政策における究極の判断基準である。効能に関する研究は2年ごとに検証されるべきである。第1、または第2線の抗マラリア剤治療に関する研究が、2008年から2009年の間に75ヶ国のうち31ヶ国(41%)で熱帯熱マラリア原虫に対する効能研究を行ったのに対し、2011年と2012年には67ヶ国のうち48ヶ国(72%)で行われた。-(現在マラリア感染が発生している国の内32ヶ国は、マラリア発生率が低いために、熱帯熱マラリア原虫に対する効能研究が実行不可能であるか、三日熱マラリアのみ発生するために、実施されていない)

 

35. アルテミニシン耐性を持つマラリア原虫は、現在、カンボジア、ミャンマー、タイ、およびベトナムのメコン河流域の4ヶ国で検出されている。アルテミニシン耐性を持つマラリア原虫の出現が見られるにも関わらず、アルテミニシン併用療法は継続されており、パートナー薬も未だ効果的とされる。

カンボジアのパイリン州では、複数のアルテミニシン併用療法への耐性を持つマラリア原虫の存在が認められていることから、非アルテミシニン混合(アトバクオン+プログアニル)を用いた直接監視下治療が特別に処方されている。

2013年4月には、WHOはメコン河流域における薬剤耐性マラリアの出現に対する緊急声明「2013-2015行動枠組み」を発表、アルテミニシン耐性の問題を含めた近い将来に起こりうる優先的な地域について指摘した。

 

マラリア監視、モニタリングそして、評価

 

2012年に、2000年にマラリア感染の報告があった103ヶ国中62ヶ国で、2000年から2012年にかけてマラリアの動向について信頼できる判断に足る百尾一貫しており、十分に満足できるものであった。残る41か国では、WHO情報システムに提出されたデータに用いてマラリア動向を評価するには十分ではないものは80%に上った。情報の正確性を高める取り組みが求められている。

 

 

36. 2012年、定期健康情報システムは世界的に発生されると予測したケースのたった14%を発見したのみだった。マラリア検出率が最も低かったのは、マラリア発生件数がもっとも高い国だった。同様に、報告された死亡率はマラリアの死亡件数が最大の国で最も低かった。正確にマラリア動向を評価するために、監視システムが全てのマラリアの症例を見つける必要はない。しかしながら、症例を見つける努力は、時間をかけて正確に均一である必要がある。マラリア発生件数が少ないと推定される国は、発生率における動向を最もうまく評価できていると思われる。2000年にマラリアと推定される事例の80%は41ヶ国で起こっていたが、WHOに提出された2000年から2012年におけるマラリア動向を正確に評価することは難しいと考えられた。そのため、情報システムはマラリアの負荷が最大の国では最も脆弱であると言える。

 

 

37. 定期的に報告されるデータとは対照的に、マラリア発生数が最も高い国々では世帯調査はしばしば行われている。34ヶ国のアフリカ諸国を含め50か国では2011年から2013年の間に少なくとも一度は世帯調査が実施されていた。もっとも一般的に測定された指数は、殺虫剤処理済蚊帳(ITNs)の有効性と抗マラリア薬の使用に関してであった。調査のわずか25%が、指腹での採血と皮刺試験を受けた発熱した事例についての疑問を引きおこしたが、他方ではマラリア治療に関する回答の90%は普遍的な診断検査に向けた進捗があるかどうか変化を求めるものとなった。寄生虫流行を測る調査数は2005年以降増加し、2011年から2013年に実行されるすべての調査の81%まで上昇した。2000年以降のマラリア予防対策の影響は、2000年の時点でマラリア感染が認められる諸国の半数以上でマラリアであることが確実な事例は減少しているか、マラリアが原因と思われる入院や死亡の事例が減少していることが記録されている。マラリアが原因と推測される死亡率は世界的にも2000年から2012年にかけてあらゆる世代で42%減少しており、5歳未満の子どもでは48%減少した。過去12年間にわたる年間発生率の減少が今後も継続するならば、マラリア死亡率は2015年までにはあらゆる世代で52%、5歳未満の子どもでは60%減少することが予測される。

 

 

マラリア予防対策に及ぼす影響

2000年以降、同時期にマラリア感染が見られた国の半数以上は、慢性マラリアの発病率、または、入院や死亡(もしくは両方)の事例が減少していることが報告された。マラリアによる推定死亡率は、2000年と2012年にかけてあらゆる年齢で42%、そして、5才未満の子どもたちでは48%減少している。過去12年にわたる年間の減少率が維持されれば、2015年までに、マラリア死亡率は合計52%、5才未満の子どもたちの死亡率は60%減少すると予測されている。

 

38. 2012年にはマラリアの危機にさらされていたのは推定34億人に上る。このうち22億人の危険は低く(人口1000人につき1件未満の症例)にあり、そのうち94%はアフリカ地域以外で生活していた。高い危険にある12億人(人口1000人につき1件以上の症例)はそのうち47%がアフリカ地域、37%が東南アジア地方で生活していた。

 

 

39. 報告されたデータに基づいて、2000年の時点でマラリア感染が発生していた103ヶ国中59ヶ国では、マラリアの発症率を減少させ、MDGs目標達成に向かっている。これらの国中で(アフリカ8ヶ国を含む)52か国では、2015年までにマラリア発生率を75%引き下げるというRBMと世界保健総会が掲げた目標に到達すると考えられている。

 

40. 熱帯熱マラリア原虫の発生率の減少の割合は、平均的に三日熱マラリア原虫のそれより高いが、この事は三日熱マラリア原虫の予防対策方法への反応が熱帯熱マラリア原虫のそれより遅れていることを示唆しているが、これはおそらく生物学的特徴に由来する。その結果、国家マラリア予防対策プログラム(NMCPs)は三日熱マラリアに対し、とりわけサハラ以南アフリカではより一層注意を払う必要がある。両方の原虫が感染する地域では、三日熱マラリア原虫は、廃絶に向けて優位な状況にある。

 

41. 2013年に感染が確認された97ヶ国のうち、12ヶ国はマラリア予防対策において廃絶直前の状況に分類され、7ヶ国はマラリア制圧の段階に置かれている。2012年に、ヨーロッパ地方では、在来の症例が225件のみ報告されており、そのため2005年のタシュケント宣言に述べられた「2015年までに同地域でマラリアを制圧する」目標に到達間近である。それにもかかわらず、最近のギリシャとトルコにおける発生は、マラリアの再発生の恐れを高めており、引き続き再増加への警戒が求められる。

 

42. 2015年までにマラリア発生率が75%低下すると予測されている52ヶ国は(報告されたデータに基づく)、2000年に推定2億2600万人が感染すると予測された人口の内4%に上る800万人にすぎないが、これは、ひとつにはマラリア発症事例が比較的少ない国での進展が早かったからであるが、発症事例が比較的多い国では、国が提出さした監視データの質が劣っていることも影響していた。マラリア発生が深刻な国で監視と評価を改善させることは、マラリアへの投資のインパクトを適切に評価するのに不可欠である。

 

43. 傾向を評価するための十分な一貫したデータを提出することが多くの事例では困難であるため、監視データよりもむしろ推定数に基づいて、これらの国における動向について推論する必要がある。2012年には推定2億700万(おおよそ1億3500万から2億8700万の間)のマラリア症例があったと考え立てるが、その大部分(80%)の症例はサハラ以南アフリカで発生している。マラリアと推定された症例のおよそ9%は世界的な三日熱マラリアだが、アフリカ大陸以外で報告された事例の50%を占めている。2000年から2012年の間に推定されたマラリアの発病率は世界的には25%減少し、アフリカ地域は31%減少した。過去12年間の減少率が維持されれば、マラリアの発生率は2015年までに世界的に36%、そして、アフリカ地域では44%減少すると予測される。

 

44. 世界規模でみると、2012年に推定62万7000(およそ47万3000から78万9000の間)人に上るマラリアによる死亡が発生している。マラリアによって亡くなったと推定された事例のうち、90%はサハラ以南アフリカで発生しており、77%は5歳未満の子どもであった。2000年から2012年にかけてマラリアによって死亡したと考えられる割合は、世界的に42%、アフリカ地域で49%減少した。さらに同時期には、5歳未満の子どもたちが命を落とした割合は48%、アフリカ地域では54%減少したと推定される。過去12年間に起きた減少率が維持されるのであれば、2015年までに世界的には52%、そしてアフリカ地域では62%減少すると予測される。さらに、5歳未満の子どもの死亡率は、2015年までに、世界的に60%、アフリカ地域では68%減少すると予測される。

 

45.マラリア死亡と考えられる割合の減少の速度は、2005年以降加速したが、2011年から2012年にかけては減速した。この減速は、ひとつにはアフリカで5歳以下の子どもたちのマラリアの死亡を推定するのに用いられるモデルがマラリアに起因する全ての死亡率を合わせるためにITNの使用範囲を使用しているのだが、2011年から2012年にかけて、マラリア対策のために拠出された資金が減少したことに伴いITNの使用範囲が減少したことに由来している。

 

46. 2012年にマラリアが原因で亡くなったと推測された事例の80%以上がたった17ヶ国で、80%が18ヶ国で発生しており、なかでもコンゴ民主主義共和国とナイジェリアだけでマラリアに由来した死亡数の実に40%に相当している。マラリアの負担が甚大な国では相当な進展がなされることがない限り、マラリア患者と死亡数の減少という目標を達成することが困難である。

 

47.三日熱マラリアであると推測される事例の内80%以上は4か国(エチオピア、インド、インドネシア、パキスタン)で発生した。この三日熱マラリアの感染は深刻なマラリアの症状と死を伴ったが、三日熱マラリアによる深刻な症状と死亡率の危険性は明確に推測された訳ではない合併症の問題、とりわけ。栄養失調を引き起こす恐れは三日熱マラリアの重篤化を引きおこすと考えられる。更なる研究では、深刻な三日熱マラリアの範囲とこの感染症を伴う深刻な病気と感染による死の危険性に関する既存の知識を精練することが求められている。

 

48. マラリア発生率と死亡率の減少に関する進展は、2000年時点でマラリアの感染と死亡率が低い国ではより速い進展がみられる。しかしながら、2000年から2012年の間に回避されたマラリア感染と死亡の大半が、2000年の時点で最もマラリアの負担の高い国であった。2000年のマラリア感染率と死亡率が10年間不変だったとすると5億人もの感染と330万もの死亡が、2001年から2012年に発生したと推測される。マラリア感染を回避した事例(67%)と命が救われた事例(93%)が、アフリカ地域で見ることが可能である。

 

49. 2001年から2012年にかけて回避された330万の死亡件数のうち、90%を占める300万人がサハラ以南アフリカに暮らす5歳未満の子どもたちだったことが推定された。この数字は、2000年以降、幼児死亡率の全体的な減少を通して、サハラ以南アフリカで回避されたと推定される1500万人の幼児の死亡率20%に上る。つまり、マラリアの死亡数の減少は、1990年から2015年の間に「5歳未満の子どもの死亡率を3分の2減少させる」ことを謳ったミレニアム開発目標の目標4の進展に大きく貢献しているということが言える。

 


文責:大妻女子大学 栗原亜実