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**事務局長ブログ**多様性(DIVERSITY)って何だ

「LGBTを主題にしたフリーペーパーを作成したいんです」

2年ほど前から、事務所には大学生がインターンやボランティアという形で出入りしている。発送業務といったこまごまとした作業はもちろん、インターンは、1か月から2か月にかけて発行される事務所だより「mudef NEWS」の記事作成、編集、レイアウトを全面的に担当してもらう。その働きぶりはもはやスタッフといってもよいレベルだ。

先日インターンとして1年ほどかかわってくれた学生が大学を卒業した。いやおめでとう。社会人としての彼女の活躍を祈りたい。

大学卒業と就職を前に、mudefインターンも卒業したわけだが、卒業前に彼女に「最後のニュースレターはあなたの集大成的な内容にすれば?」と提案したところ、「LGBTを紹介するニュースレターにしたい」との返事が返ってきた。

彼女以外にもmudef事務所に出入りしている学生は、現在5名いる。「広報インターン」と呼ばれる彼女たちは、自分たちが気になる「世界の課題」を選択し、考え、解決の糸口となる広報企画を自分たちなりに試行錯誤して提案してもらう。

「面倒なことを学生にやらせているのでは」と指を刺されそうだが、学生のアイデアは馬鹿にはできない。レイアウトや文章への手直しが必要だとしても、基本的なアイデアに「はーそうきたか」と感じ入ることはしょっちゅうだ。

そんな若く熱意溢れる5名の広報インターンたちが、現在取り組んでいるテーマがLGBT。LGBTを主題にしたフリーペーパーを作成したいと、先ほどもドラフトが送られてきた。よくもこのオフィスソフトでここまで作れたなあと感心して眺めていた。

知らない人のために簡単に説明すると、「LGBT」とはレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーなど、性的マイノリティの人々のこと。電通総研の調査では、現在約20人に一人がLGBTに該当するといわれている。単純計算すれば、40人のクラスであればクラスメイトの2名がLGBTという訳だ。

今年に入って東京都渋谷区では同性カップルを「結婚に相当する関係」と認め、証明書を発行する条例案を検討し、話題となった。ニュースを見るとLGBTについての特集もよく目にする。

現在mudefでは、LGBTと、いろんな人がいっしょに楽しめる未来を目指すNPO法人グッド・エイジング・エールズが運営するシェアスペースを作業スペースとして間借りしている。スペースで作業しているとパートナーシップ条例の話はもちろん、「あ、あなたもそうなんですね」という方にも出くわすのだけど、LGBTが人口に占める割合を思えば、当たり前といえば当たり前の環境だ。

「多様性」が市民権を得る

我ながら強引な書き方で恐縮だが、LGBTの話題に限らず、ここ最近あらゆる場面で「多様性」がキーワードになっているように感じる。

2012年からmudefで支援してきた特別なニーズのある子どもたちやその家族に向けた乗馬プログラムでは、障がいや、家族の事情で離ればなれに暮らす子どもなど、様々な環境に子どもたちを対象にしている。その事業の関連で、昨年11月にスペシャルオリンピックス日本の福岡大会で、乗馬やバトミントン競技を観戦した。競技は障がいや年齢、性別に応じてさまざまにクラス別に分類され、競われる訳だが、そのうちの種目の一つに、登録したアスリートが、障がいを持たない、所謂「健常者」とカテゴライズされるアスリートと共に戦う場面もあった。

この福岡大会とは別の駅伝大会でも同じ試みをした経験があるが、そのときは障害を持つアスリートと、持たないアスリートがチームを組んで大会に参加していた。協力したアスリートからは「これまで『一緒に』何かする経験がなかったけど、楽しかった」とのコメントが一様に寄せられるのだが、これって要するに、今まで「出会っていなかった」ということを告白しているわけだ。

私の想像でしかないし、断定的な書き方で申し訳ないが、障がいの有無は、あらゆる場面で、人を二分化してきたと思う。障がいが「無い」人と、「有る」人は出会ってこなかった。有無によって壁が作られ、出会わないで生きてきた。それって認識しない限り、向こう側の人とこちら側の人が出会い、交流することがない、また交流しないで済む環境だったということだ。それは問題が可視化され、認識されることを妨げてきた理由であったともいえる。

mudefでは、「すべての人が平等にやりたいことにアクセスできる社会(ACCESSIBLE SOCIETY)」が大切であるとの思いから、これまで障がい者乗馬の支援やLGBTについて考えてきた。LGBTや乗馬プログラムを通じて、所謂「普通」「常識」という範疇からはじき出されてしまう人々の存在を見てきた。同時に、これまで「普通」「常識」という言葉に枠をはめられ、委縮され、動き始めることすらできなくなる人もいるのだという現実も目の当たりにした。

今、スポーツをキーワードに障がいの壁を越えて、「一緒に」楽しもうという意識が広がりつつある。少しずつ少しずつだが、「多様性」が市民権を得つつある。

自分自身の壁を壊せ

渋谷区のパートナーシップ条例の検討をきっかけに、社会でもこの性と家族の在り方をどう考えるのか、様々な場面で議論が生まれている。25日には自民党内でも会合が開かれたそうだが、「同性間だけにパートナーシップを認めるのは異性愛者差別では?」との意見も出たそうだ。

事実婚との差異についての議論の中での、異性愛者への差別とのコメントらしいが、「あほか」の一言に尽きる。そういえば前に見たTV番組でも、自民党の議員先生が、「同性婚を認めると少子化が進む」という、「頓珍漢」という言葉でしか形容できない意見も聞かれた。

「おっさん政治の与太話(これも差別的な言い方だが)」と切って捨てるのは簡単だが、しかしそれが言わば「社会の良識」として私たち自身を縛り、規制してきた、考え方であったのも事実だ。誰もが平等にアクセスできる社会の実現はそれほど簡単なことではない。社会と個人と、そして自分自身の3つの次元での壁に立ち向かう必要がある。その壁は、私たちが想像している以上に厚く険しい。

壁に立ち向かうには、異なる他者への理解はもちろん、壁を崩すための知識と意識も必要だ。理論武装をして初めて自分自身の壁を崩すことができる。

ということでこのブログのオチは「勉強しろよ」ということではあるが。学生さん、LGBTのフリーペーパーの完成、楽しみにしています。

 

文責:長島美紀(mudef事務局長)