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**事務局長ブログ** 世界最小・最強の殺人兵器

私がアフリカに足を踏み入れたのは、今から12年ほど前になる。知り合いの紹介を受けて南部アフリカのザンビア、それから博士論文で研究対象としていたスーダンを1か月かけて回った。

両親の心配は大きかった。今と違って携帯も通じない、ネットへのアクセスも困難な状況では、無理もない。

おまけにザンビアでは10日以上ネットにアクセスすらできないので日本への連絡は取れない。ようやくメールが届いたと思ったらヒッチハイクをした、など言い始める娘。特に二か国目となるスーダンが当時内戦状態だったことも途中でばれた。「金が必要なら送金するからお願いだから帰ってきてくれ」というのは、両親の本音だったのだろう。そのせいか、今でも父のセリフは「騙された」、だ。

心配ばかりかけた旅だったが、私がその時一番怖かったのはマラリアだ。

他の感染症と異なりワクチンが無い。薬はあるが、副作用も強い。「悪夢を見るようになる」という副作用で怖気づいた。親戚の人からは「養蜂家が被るようなハチ除けがいいんじゃないか」とまで言い始める(さすがに丁重にお断りした)。あの時の脅えっぷりを思い出すと、知らず知らず笑いがこみあげてくるほどだ。

しかしその脅えは、決して的外れではない。メスのハマダラカがマラリア原虫を媒介し、ヒトに感染するマラリアは、複数の種類があるが、その中でも最も危険と言われる「熱帯熱マラリア」は、マラリアの死亡原因の大半を占める。感染してから発症するまで1週間以上かかるため、帰国後に発症し、十分な設備や知識を持った医師にかかれず、重篤化する危険もある。

栄養が十分に取れていない幼児や、免疫力が低下している妊産婦やHIV感染者は、免疫力の低下からマラリアに感染すると重症化しやすく、命を落とすことも多い。実際、2013年には約60万人が亡くなっているが、その多くがサブサハラアフリカの5歳未満の子どもだ。

「アフリカに行かなければ大丈夫なのでは?」

とも聞かれるのだが、甘い。アフリカ以外のインドや東南アジア、ラテンアメリカにもマラリアの危険はある。マラリアの感染が確認されているのは97の国と地域だ。単純計算すれば世界人口で2人に一人が、マラリアのリスクがあることになる。これからはじまるGW連休で海外旅行を楽しむ先にも、マラリアの危険があるかもしれない。

年間2億人近くが感染するマラリアは、私たちと無関係ではない、ということだ。

昨年、マイクロソフトの創業者であり現在はマラリアを始めとする感染症の問題に取り組むビル・ゲイツは、自身のブログでハマダラ蚊を「世界で最も危険な生きもの」と記した。地上最強と言われるカバや、クロコダイルよりも、そして人間よりも多くの人命を奪う。まさに「世界最小・最強の殺人兵器」だ。

近年、mudefでも行っている予防に有効な蚊帳の配布や、初期治療のための薬の備蓄などの対策で、マラリアによる死亡者数は劇的に減少した。

しかしそれでも、今なお1分に1人の子どもが命を落としている。知らない間に蚊に刺され、感染し、発症する。24時間以内に治療ができなかったために、予防と適切な治療が受けられれば助かる命が、世界各地で失われているのだ。

4月25日は国連が定めた「世界マラリアデー」。世界各地でマラリアについて知り、予防への意識を呼びかける日だ。

ぜひマラリアの事を改めて知り、なぜ支援が必要なのか考えてほしい。

世界最小・最強の殺人兵器の使用を抑止し、犠牲者の数を減らすことは可能なのだから。

 

出典:The Deadliest Animal in the World (http://www.gatesnotes.com/Health/Most-Lethal-Animal-Mosquito-Week)

 

文責:長島美紀(事務局長)